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2008/06/14

『12歳からのインターネット』――全然「当たり前」じゃないITリテラシー

Amazonから、荻上チキさんの『12歳からのインターネット』が届く。どんなテイストの本になるのか、うかがっていたため、楽しみに待っていたが、期待に違わぬデキだ。

ご本人は自身のブログ

「当たり前」のことしか書かれていない本です。
と謙遜するが、これまた「荻上式BLOG」でもおっしゃるとおり、この「当たり前」とは、ネットユーザーにとっての「当たり前」。ネットの世界に明るくない人や、教育の世界に明るくない人にとっては実は「当たり前ではない」、でも、ネットを扱う上で大切な心構えをキチンと説いている。

学校とは、良くも悪くも「社会の建前」を教える場だ。中学校のころ、当時の担任教師に聞いてみたことがある。

「なんで校則は守らなきゃいけないんですか?」

いかにも反抗期バリバリの厨房丸出しでカッチョ悪いにもほどがある質問だが、小うるさいガキがうざったかったのだろう担任のあしらうような答えは奮っていた。

「守っときゃ、大人からうるさいことを言われずに済むだろ」

「余計なストレスを回避するために、とりあえずルールを守っておく」という選択は、確かに立派な処世術だ。だから、ボクは非常に感銘を受けた。

が、そんなことは、やっぱり学校で教えちゃあいけない。「集団生活を送る上で規律は~」と説教の1コもぶってくれてこその、ガッコのセンセイというものだろう。そして子どもは、その建前を踏まえた上で、その後の友人との交流やアルバイトなど、社会経験を積み重ねる中で、処世術や裏技を自ら体得するのが正道だ。

だから、先生の書くITリテラシー本、情報モラル本は、どうしても、その正道に則った「建前論」になりがちだ。「ネットに人の悪口を書いてはいけません」「プロフや学校裏サイトはトラブルの火種になるから、作らないようにしましょう」。

決して著者が無能なわけではない。子どものマインドを熟知しているから「子どもの執念はハンパじゃない。どうしてもヤバげなサイトが見たかったらフィルタリングなんて楽勝で突破する。技術に頼るな」など、見所のある提案をする先生は少なくない。教育者という職務、職責に忠実だからこそ「加害者になるな!」「悪いことには関わるな!」という人として当然の基本姿勢を教えようとしているだけだ。ただ、加害者になることや、被害を受けたときの恐怖に怯えるあまりコミュニケーションを控えてしまうと、ネットを有効活用することはできはしない。

他方、ITライターが書くITリテラシー本、情報モラル本は、やっぱり職業上の問題なのか、テクニカルな話題に終始しがちだ。「ウイルス対策ソフトとファイアウォールを導入しましょう」「フィルタリングソフトで有害サイトはある程度シャットアウトできます」。ユーザーマインドに訴えかけないぶん、先生の提案よりも実効性やリアリティに欠く。

『12歳からのインターネット』は「加害者になるな!」「技術によるフィルタリングやゾーニングも活用せよ!」という誰にとっても「当たり前」のことへの目配せを欠かさないのはもちろん、教育屋、IT屋よりも一歩先行く提案、つまりは裏技、処世術についても解説する。

特に注目したいのが「荒らし」と「粘着」の対処法について。同書は、とにかく全力でスルーしろ、もっと安全なコミュニティを探してみろ、と提案している。

「なにを当たり前のことを」と思えるなら、その人は、立派なネットユーザーだ。しかし、まずは子どもに「世の中には建前ってもんがあるんだよ」と教えなければならない先生は「顔も見えない相手から悪口なんて言われたってムシしときゃいいじゃん」「そいつとは関わり合いにならなきゃいいじゃん」とは言っちゃあいけない。だから、これまでのITリテラシー本、情報モラル本では、この見解は「当たり前ではなかった」。

そのほか、同書では「別人格を演じることは、悪いこと?」という質問に対して、他人の評判をおとしめたり、誰かをダマすためにネット人格を使うことは禁じる一方で、

楽しめる範囲なら全然OK
と、笑えるレベルのコミュニケーションは許容する。同じく「釣り」についても、デマはNGとしつつも、
参加者全員が楽しめるようなとんちのきいた「釣り」
はアリ。

2ちゃんのネタスレなんかでゲラゲラ笑ったことがあるなら、こちらも「当たり前」のことだろうが、建前論で考えると「当たり前ではなく」なる。やっぱり、ウソはいけない。

加害者と被害者。どちらが悪かと問われれば、多くの場合は、まあ、加害者だろう。だから、建前論では、加害者、つまりは「良くない情報発信者」になることを回避する方法を指導することになる。もちろん、悪になんてなるべきではないのだから、建前を知っておくことも重要なのだが、どこに「荒らし」や「粘着」「釣り糸」が潜んでいるとも知れないネットの世界では、被害者(情報の受け手)にも相応の心づもりが必要だ。

その性格上、先生には教えられない、この心づもりを指摘できるのは、教育の世界からもITの世界からもほどよく距離を置く荻上さんだから。決して「当たり前」のITリテラシー本じゃない。実は画期的な1冊だぞ、これ。

さて、これを読めば、ネットを使うときの基本的な心構えは醸成できるはず。次は、実践編だ。実際にパソコンを使ったケーススタディみたいな本が必要なんだろう。

はてさて誰が書くんだろう。とりあえず立候補してみるか。一応のノウハウとしかるべき肩書きを持った指導者、そして書き手(っつうかオレ)は用意できるはず。軽く企画書でも書いてみよう。

というわけで、労働意欲を盛り上げてくれる意味でもいい1冊だった。

【付記】
ついでに言っておくと、学校主導のITリテラシー教育、情報モラル教育がはかばかしくないのには、学校のパソコンの設置台数の問題もある。公立の小中学校の場合、児童・生徒の個人情報漏洩を防ぐ意味合い(と予算の関係)から、職員室に2台きりしかパソコンのないところも珍しくない。先生って、能力の問題ではなく、物理的にITリテラシーや情報モラルを高めにくい環境にあるんだよね。

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2008/06/10

ダメ就職指南

■α-Synodos vol.5
http://kazuyaserizawa.com/synodos/mm/index.html

現在配信中のメールマガジン「アルファ・シノドス」で荻上チキさんと対談させてもらっています。

拙著『凶暴両親』と、荻上さんの最近の研究テーマであるところのITリテラシー、情報モラル教育を引き合いに、超近視眼的な(「親として」なんて立場での。当事者性バリバリの)教育論争の不毛さ加減について話をしたのですが、テキストをまとめた荻上さんの琴線により強く触れたのは、ボクの来歴のほうらしい。えらい紙幅を割いています。

気持ちはわかる。ボクのダラダラ話をキレイに交通整理していただいたテキストを読み返してみるぶんに、この人(ボク)、今のこの仕事にありつくために、いや、大学進学にですら、なんの努力も払ってないことがよくわかる。今、ボクがココにあるすべての理由は、強力にもほどがあるコネと営業のおかげ。最悪だわ、この人。絶望したっ!

いや、なりゆきで、意外とどうにかなっちゃってるのは、なにもボクに限った話ではない。もっともっと能力のある方々だって、そんなもんだったらしい(と自分を慰めたい!)。

たとえば、'90年代、ターザン山本!政権下の『週刊プロレス』黄金期を支えた小島和宏氏。回顧録『ぼくの週プロ青春記』によると

高校時代、父親の勤めていた会社が左前になり、家計がひっ迫

茨城から電車通学できる大学以外に進学できなくなる

当時からプヲタだったからと、日本武道館と後楽園ホールにほど近い大学を選択

あわせて、常連投稿者として、やっぱり大学の近所にあった『週プロ』編集部に出入り。そのままバイトくんに

卒業後、嘱託社員から正社員に

新日本プロレスや全日本プロレスのような老舗で大手の団体には、すでにガッチリ食い込んでいる担当記者がいる

だから、当時『週プロ』で扱いの小さかった女子プロと、まだ海のものとも山のものともつかなかったインディ(FMWとみちのくプロレス)の担当に回ることに

空前の女子プロブーム、大仁田ブーム、みちプロブーム到来

名物記者に

もちろん、小島氏の記事に煽られて女子プロ、大仁田、みちプロ人気に火が付いた部分もある。取材力、筆力に恵まれたからこそ名物記者にもなれたのだろう。が、状況を羅列するぶんには、まったくもって、なりゆきで、そうなっている。

先日、お酒の席でご一緒した尾谷幸憲さん曰く

「オレ、ライターになってすぐ『大学受験Vコース』編集部に潜りこんだんスよ。専門卒なのに(笑)。『サークルってチョー楽しそうだなぁ』って思いながら記事作ってましたよ」

それが、今やベストセラー作家だ。

これは、出版業なんつう「米一粒、釘一本もよう作らん」、社会の役に立ってるんだかどうだかもよくわからない、ふんわりした職業だからなせる業なわけじゃないと思う。

できる社員は「やり過ごす」』(好著!)の著者にして、東京大学大学院教授の高橋伸夫氏から、以前こんなお話をしていただいたことがある。

「ボクらの世代(高橋氏は'57年生まれ)のサラリーマンって、若手社員に『この仕事にやりがいを持ちたまえよ』なんてことを言いがちだけど、冗談も休み休み言え、って感じなんですよね」

高橋氏が就職活動をしていたころは、石油ショックによる不景気の影響で氷河期のまっただ中。大半の連中が希望どおりの会社になんて就職できなかったという。

「でも、食うためにはその職場で与えられた仕事を粛々とこなしていくほかない。そうこうしているうちに、たまに仕事がうまくいったりなんかして、なんとなく『オレ、この会社に向いているかも』とか『仕事って結構楽しいじゃん』って思えるようになっていっただけなんです。そんな気持ちを忘れて、若者にだけ『やりがい』を強要するのはズルいですよ」

現状、いろいろ言いたいことは誰しもあるだろうけど、よほどのことじゃないかぎりは、なんとなく今の流れに乗って働いちゃったほうが、ちょっとくらいは、いいことあるらしいよ。

【付記】
メディアの人は「若者と仕事」とか「サラリーマンの処世術」なんてお題で記事や番組を作るとき、高橋先生を取材するといいと思うよ。ルックスは、ジャガー横田の旦那チックというか、ジェントルなメガネハンサム。なのに、出てくる言葉は、上記のとおり、皮肉が効いてて、やたらとキレ味がいい。マジでオススメ。

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