JCのハルヒダンスが見られるのはHana*chu→だけっ!
著書『なぜケータイ小説は売れるのか』のあとがきで、本田透さんは、その大いなるイマジネーションの羽根を広げ、今の中学校、高校の教室の風景を、こう想像している。
隣の席では、恋愛信仰にどっぷり浸かったクラスメイトの少女がケータイを使って『恋空』や『赤い糸』を読んでいる。その横で、自意識に目覚めてしまった少年は『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川スニーカー文庫)などのライトノベルを読みながら、現実には存在しない学園、セックスやレイプや妊娠やドラッグに侵されていない学園を脳内に幻視する。なるほど。旧態依然としたメディアのオッサン、オバサンがよく口にしがちな「若者の活字離れ」とやらが本当に進んでいるのなら、今、積極的に活字の本を手にする学生なんて、ラノベ読者かケータイ小説読者くらいしかいないのかもしれない。同じ教室にいる生徒が『赤い糸』と『涼宮ハルヒの憂鬱』とに分離している。そして、お互いをおそらくは敵視し、あるいは無視し、関わり合いにならないように自らのパーソナル・エリアを守りながら生き続けている。
そして、お互いの趣味の違いによって、友人・知人との間に断絶が起きることがあるのも、よくわかる。'08年にもなって、もはやホコリをかぶりまくった'90年代ニューヨークハウスやらマンチェスターギターロックやらばかり聴いているボクが、湘南乃風やコブクロのファンと趣味の話に花を咲かせられるかといわれると、ちょっと難しい気がする。
ただ、ボクは学校はおろか、会社にすら所属していないフリーランサーだ。趣味嗜好の合わない面々と四六時中ツラを突き合わせることも、おそらくこれっぽっちも理解されないだろう趣味の話をせざるを得ない場面に出くわすことも、逆にボクがこれっぽっちも興味の持てないコンテンツについて熱く語られることも、そうそうない。だから、誰がなにを好きだろうと、実は、あんまり困らない。
しかし、自分の趣味や世界に妙にコダワっちゃったりする多感な時期の学生さんにしてみれば、本田さんのイメージする学校の風景は、軽く絶望的だ。1日の大半を同じ空間で過ごす仲間であり、しかも同じ「読書好き」でありながら、まったく相容れない2人という構図は、ラノベ読者にとってもケータイ小説読者にとっても、存外不幸なことだろう。
ムダに自意識が高く、自己肯定感が強い年代だけに、ラノベ読者は、ケータイ小説読者を横目に「けっ、ビッチどもが」「DQNが頭のワリィ本なんか読んじゃって」なんて思っていても、おかしくないし、本田さんが指摘するとおり、ケータイ小説読者もラノベ読者を「『キモイ』とか『オタク』とか」呼んで白眼視しているかもしれない。せっかく、お互い知らない間柄ではない上に、活字を読むのが苦じゃない者同士なんだから、好きな本の話で盛り上がれれば、さぞ楽しい青春を送れそうなものなのにね。
と、オタク気質の強いボクなどは、特にラノベ少年のニヒリズムにシンパシーを覚えながら、同書を読んでいたのだが、雑誌『Hana*chu→』によると、実は、本田さんやボクの予想は若干外れているらしい。
同誌は、成海璃子などを輩出した女子中学生向けファッション誌。ケータイ小説とのコラボにも積極的で、自社(主婦の友社)の刊行するケータイ小説の帯ラーに成海を起用したり、動画配信サイト「魔法のiらんどTV」のケータイ小説Webドラマの主演に専属モデルを投入したりしている。
で、以下は、その9月号のセンター付近の企画のタイトル。
知らなきゃヤバッ! 体育祭で、休み時間で、カラオケで……全国女子中生の間で大ブームっ!企画趣旨は読んで字のごとく。ハルヒのコスプレをした専属モデルのコがハルヒダンスの振り付けを指導するというものだ。ちょうど、演歌や盆踊り曲のレコードのインナースリーブに載っている振り付けの分解写真をイメージするといいだろう。
「ハレ晴れユカイ」振り付け完全ガイド
正直な話、同誌が
アキバ系のイキを超え、女子中生からも人気のカリスマアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』。そのエンディング曲『ハレ晴れユカイ』のダンスが、「ノリがよくて萌えカワ!」ってことで大流行。さっそく、振りをマスターしよう!と煽るほど『ハレ晴れユカイ』が女子中学生に浸透しているのか否かは、知らない。
最近「オトナが、いたいけな少年少女をダマくらかしてケータイを買わせている実態」を調べるために、ティーン誌数誌を定期購読しているのだが『ハレ晴れ~』について言及があったのは同誌だけ。「ハレ晴れユカイ ハナチュー OR hanachu OR hana*chu」なんてキーワードでググってみてもヒットする小中学生ブログは、せいぜい両手にあまるくらい。YouTubeやニコ動をさらってみると、中学生が踊る『ハレ晴れ~』動画がいくつか引っかかるのみ。
それに、そもそもブログを開設したり、ニコ動をアクティブに使いまくったりする小中学生は、早くからITに興味関心のある、ある意味において「進んだ子」だ。そして、森川嘉一郎『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』を引くまでもなく、ITマニアと、いわゆる「ヲタ」の親和性は高い。だから、本当に『ハレ晴れ~』が「アキバ系のイキを超え」ているのかどうかは、まるで判らない。
とはいえ、同企画の担当編集やライターがまるでウソをついているとは、もちろん思っていない。普段の取材や仕事を通じて話を聞いた読者やモデルが「『ハレ晴れ~』がアツい」なんて言っているのかもしれないし、または、ブームを仕掛けようとしているのかもしれない。
女子中学生のマインドはイヤというほど知っているだろう彼らが、面白がって取り上げるのだから、まだブームこそ訪れていないにせよ、『ハレ晴れ~』には、女子中学生に刺さるなにかがあるのかもしれない。エド・はるみや世界のナベアツのネタ、DAIGOの決めポーズ(スタン・ハンセンみたいな指を作った両手を胸の前で交差させるアレ)みたいに「チョー面白いから」なんて理由で、女子中学生が今から『ハレ晴れ~』のダンスをマスター。今度の体育の日、近所の中学校から爆音で『♪なぞなぞ~』なんて流れてくる可能性だって、けっして否定できはしない。
さて、全国の女子中学生のみなさん。もし『ハレ晴れ~』の振り付けを覚えたなら、クラスの隅っこで、黄色いカチューシャの女のコが表紙の文庫本を読んでいるメガネ君に声をかけてみてほしい。「それ『ハレ晴れ~』のヤツだよね」。メガネ君は、度を超すにも程があるシャイガイだから、あなたがクラスに持ち込んだラジカセで『ハレ晴れ~』を流していても、たぶん声をかけられないだろうから。そして、声をかけたあなたには、今、読んでいるケータイ小説よりも、はるかにリッチでマシな読書体験が待っているはずだから。
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