そろそろ全国の小学校の職員室に宣伝用の見本が届いているらしいので、勝手に「いいはず」と解釈し、話してしまおう。
来年度、全国の小学校に(採択されれば)配布される、文溪堂の小学2~6年生用の道徳副読本の一部を執筆をした。
教育関係の専門用語を使ってキチンと書こうとしたら、なんだかわかりにくい漢字が山盛り出てきてしまった上に、明らかに言葉が足りてない。面倒くさいので、ざっくり書こう。
「登校途中、道に迷っているおばあさんを見かけた太郎くんは、おばあさんを助けるべく、ナビっていたら、遅刻してしまいました」
道徳の時間に読んだ副読本(道徳は教科ではないので「教科書」ではないのだが、まあ似たようなもん、と考えてほしい)に、こんなお話が載っていたのは、誰もが記憶にあることだろう。あの手の短編を、文溪堂という学校教材会社が制作する各学年向けの副読本に1本ずつ書かせていただいている。
ブログに官能小説の感想駄文を書き殴り、『週刊SPA!』誌の転職特集において「マグロの一本釣り漁師への転職」を真顔で提案する、名実ともに掛け値なしのボンクラライターたるボクが、なぜにそんな仕事をすることになったのか。
今年3月下旬に文科省が告示した「小学校学習指導要領」の第3章「道徳」に、こんな一文がある。
児童の発達の段階や特性等を考慮し,第2に示す道徳の内容との関連を踏まえ,情報モラルに関する指導に留意すること
これまた、ざっくり言うなら「来年度以降、小学校の情報モラル教育は道徳の時間にしなさいよ」と文科省が正式におっしゃっているわけだ。そして、新指導要領では、そのほかにもいろいろな改正が行われている。そこで、文溪堂をはじめ、学校教材各社は現行の道徳副読本を改訂することになったようだ。
文溪堂には『凶暴両親』執筆の際、小学校の先生や、大学で教職課程の指導をしている教授、発達心理学の先生などをご紹介いただいており、また、ボクはITライターとして今のキャリアをスタートさせている。そんな縁(と、ボクの恥も外聞も捨てきった売り込み)もあって、東京都北区立西ヶ原小学校副校長にして、文科省委託の「『情報モラル教育』指導手法等検討委員会」委員も務める野間俊彦先生と共作という形でお仕事をさせていただいた。
制作に当たって、まず、考えなくてはならなかったのは、小学校で指導すべき「情報モラル」とは、どんなものなのか。これについては、ご自身のブログで指摘しているとおり、野間先生が明快な回答をくださった。
■のまっちの情報教育通信「進化した著作権教育」
http://edublog.jp/noma/archive/283
今日、著作権教育関係の会議に出てきた。
いくつもの実践報告の文書を読んで、著作権教育もいい実践が行われるようになったと実感した。
2年ぐらい前は、著作権教育というより「著作権法教育」の色が濃く、「著作権は、著作者の死後50年たつとなくなります」(今は、70年の分野もある)みたいな授業や、唐突に著作権を取り上げた授業が多かったが、今日見た実践は、子供の心情に訴えるものや、ものづくりの過程で子供たちが著作権問題に直面するように計画されていたものがほとんどだった。
引用のエントリは著作権教育にのみ言及しているが、情報モラル教育においても、ボクらの考え方は同じだ。いきなり個別的な各論から入るのではなく、ネットに対する適切な心構えや心情を育む総論について考えることが大事。
調査機関や調査対象によって数字は異なるが、小学生のケータイ保有率は多くて3~4割。小学校のITデバイス設置状況も、情報教育に積極的な陰山英男先生が副校長を務める立命館小学校のように、電子黒板で授業をし、Felicaを使った児童証で出欠席を管理。児童のほぼ1人に1台、ノートPCを支給できる学校もあれば、パソコンルームに1クラス分にも満たない数のデスクトップPCしかない公立学校もある。
ITデバイスへの接触度合いがまちまち、というか、おしなべて低めの7~12歳児を相手に、野間先生の言葉を借りるなら「唐突に」、やれ「ブログはこう使え」だの、やれ「モバゲーは使い方を考えて遊ばないとヤベェぞ」なんて、やたら具体的な専門用語バリバリのテキストを渡したところで、これっぽっちもリアリティなど抱いてはもらえない。実際、野間先生の調査によると、モバゲーのアクティブユーザーがチラホラ増え始めるのは5年生くらいからだという。
ならば、ごく当たり前の生活風景の中で起きそうなエピソードやトラブルを描いた物語を読むことで「主人公はどうすべきだったのか」「ボクや私にも思い当たる節はないか」という、ITや情報に接触する上での心構えについて考えてもらう(道徳は説教の時間ではなく、道徳的心情を育む時間なので「説く」にあらず)ことが先決だ。
実際、野間先生ら「情報モラル教育」指導手法等検討委員会が制作した「情報モラル指導モデルカリキュラム表」を眺めてみても、セキュリティ意識や知財についての知識を深めるのは中学生から。小学生のうちは、ネットでのルールやきまり、空気を読むための基礎を知るべき、となっている。この表は、実際に学校で教鞭を執る教育のプロが考えたスケジュールだけに、子どもの知識や心の成長・発達段階と、IT機器、ネットの利用状況を十分に考慮しているのは当然のこと。各学年の小学生が確実に理解し、実践できる情報モラル教育のレベルの指標と見て、まず間違いないだろう。
そこで、学習指導要領はもちろん、同表にも準拠させる形でボクらが制作した情報モラル教育系資料が、これ。
■2年生「もりのけいじばん」
子ザルが、森の動物たちがみんなで使う掲示板(町内会の掲示板みたいなもん)に「今度、自転車を買ってもらうんだ」という貼り紙をしてしまう、というマンガ。「規則を尊重する気持ち」や「公徳心」を養いつつ、パブリックなスペースに情報をアップするときのマナーについて考えてもらうのがねらい。
■3年生「手紙を書くね」
夏休みの数日をいとこの男の子の家で過ごした女の子が「帰ったら手紙を書くね」と約束したものの、1日、2日、書くことを忘れてしまい、慌てて「楽しかったです。また遊んでね」的なテキトーなハガキを送ることに。すると、そのいとこから、どエラい丁寧な封書が届き、恥ずかしい思いをしてしまった。言葉足らずのコミュニケーションは礼儀に欠くし、気持ちを十全に理解してもらえないよ、っつうお話。
■4年生「和がし屋さんの写真」
夏休みの自由研究「街の名物地図」作りのために老舗和菓子屋を取材することにした子が、忙しそうにしている和菓子屋のご主人に気兼ねして、ダマで写真を撮ってしまう。肖像権のお話。まさに、野間先生言うところの「ものづくりの過程で子供たちが著作権問題に直面するよう計画」してみたり。
■5年生「だれも知らないニュース」
下校の道すがら、ちょいと耳にした、あるタレントに関する噂話を、ファン掲示板に書き込んでしまう女の子。いわゆる「ソースを出せ」って話。なんぼ自由に発言できるスペースであっても、確度の足りない情報は安易に公開しない自律的な子になってね、と。
■6年生「やっぱり気になる」
アニメのファンサイトで、自分の書き込みについて、ほかのファンからツッコミを入れられた女の子。いよいよハードなツッコミが入ったとき、キレてケンカを売りそうになるも……。主題は相手の意見を尊重する気持ちを育むことながら、裏テーマは「スルー力」。
個人的には6年生向けの資料が一番のお気に入りだ。以前書いた「
『12歳からのインターネット』の書評っぽいもの」のとおり、学校では、その性格上「ネットの悪口に対しては全力スルーでひとつ」とは、なかなか言いにくい。さりとて、スルー力はネットを使う上でぜひとも習得しておきたい。そこで、先生に指導していただけそうな格好にどうにかソフトランディングさせてみた。結構、画期的な試みだと自負している。
さて、ここまで延々と書いてきたのだから、最後は「来年4月配本。読んでね」で締めるに越したことはない。のだが、コイツは学校配布の副読本。学校直販商品のため、やたらと発行部数はあるものの(新聞を除けば、ボクが記事を書いた媒体の中では最大部数かも)、書店売りはナシ。相変わらず「打てども響かねぇ告知ばっかだな」というツッコミもあろうが、情報モラル教育のエキスパート中のエキスパートと一緒に制作し、副読本を採択した小学校の子どもが確実に目にするという点では、どんな類書よりも実効性と影響力のある資料を作成できた自信はある。
不肖・成松、実はこんな仕事もできるんスよ(笑)。
【付記】
教科書や副読本のような学校教材の場合、子ども向けの教科書・副読本とあわせて「それらを使ってこんな風に授業を展開してみてはいかがでしょう」と提案する「教師用指導書」というものも制作する。各学年向けの指導書中には、もちろん上記のような資料制作の意図・寓意について記載したが、5年生向けでは、あわせてコラムという形で参考書籍を紹介している。取り上げたのは『児童心理2008年10月号臨時増刊 ケータイ、ネットの闇』と『12歳からのインターネット』の2冊。
『ケータイ、ネットの闇』は、金子書房の雑誌『児童心理』の別冊。野間先生など、学校の先生から、『学校裏サイト』の著者・渋井哲也ら、学校周縁から情報リテラシー教育を見つめるライターまで、いろいろな立場の面々が、今の学校と子どもを取り巻く状況を解説する一冊。子どもの好むサイトや流行りの用語・コンテンツ、裏サイトの現状、家庭でできるネット教育などを紹介する。「紙芝居の昔からニューメディアっつうもんは理不尽に叩かれる宿命にあるんだよ」「実は子どもって、それほどヤバいネットの使い方はしてないよ」と、単に恐怖を煽るのではなく、冷静に現状を俯瞰しているのが◎。
『12歳からの~』については本文中のリンクのとおり。ネットにアクセスする上での心構えを平易に説いている。荻上さんご本人がネット教育についての議論をドライブさせるための一冊と捉えている向きもあるので「これさえあれば大丈夫」というわけではないものの、考えるヒントとしては十分すぎる内容になっている。
いずれも書店で買えるので、ぜひ。もちろん、下記アマゾンアソシエイトのリンクを踏んづけていただいてもOK!(笑)